Cosmic Consulting

マッシュアップトーク

“チームプレイ”というキーワードを軸に、組織コンサルタントの波上こずみがビーチサッカーチーム『ソーマプライア』のコーチである河原塚毅氏と対談を行なった。


人材派遣会社でマネジメント業務に携わっていたMをファシリーテーターとして、二人の話をまとめていくことにする。
スポーツとビジネス。“より良いチームを作る”という目的は共通している。良いチームの定義とは何なのか。
チームの成長と自己実現を両立させるためにはどうすればいいのか。チームに所属するメンバーが活き活きと働くために、上司にできることとは。
個人でも実現できる働き方改革を突き詰めていこう。

河原塚毅(カワハラヅカ タケシ)
ソーマプライア沖縄代表
元ビーチサッカー日本代表
ビーチサッカーの選手時代には、日本代表キャプテンとして、W杯(ワールドカップ)に6大会出場。チームとしては、沖縄をホームタウンとして活動するソーマプライアを3度日本一に導く。

波上こずみ(kozumi naminoue)
Cosmic Consulting代表
組織コンサルタント
那覇市首里出身。2016年Cosmmic Consulting創立。【働く人の生き生きを組織の活力へ】をビジョンとし、県内各地で、人材定着、人材育成プログラム構築や働き方改革コンサルティングなど、組織活性コンサルティングを行っており、のべ80社以上のコンサルティング実績を持つ。

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質問者の写真
今日はお忙しい中、お時間いただきありがとうございます。

解答者の写真
いえいえ!とんでもない!

―お二人はもともとお知り合いなんですよね?

質問者の写真
 息子が小学校のときに、たけコーチ(河原塚氏の愛称)のチームにお世話になっていて。今、息子はチームを離れているんですけども。

解答者の写真
それでもこうやって関係が繋がっていくのは嬉しいですね。

質問者の写真
 スポーツってビジネスにおけるチームづくりと共通しているなってずっと思っていて。
組織って大きくなればなればなるほど中にいる一人一人が見えにくくなるけど、
チームの中にはいろんな人がいて、それぞれの強みを掛け合わせた方が力を発揮できると思っていて。
ビジネスとスポーツは違うフィールドかもしれないけど、きっと共通する部分があるかもしれないと思って、このような機会をセッティングさせてもらいました。

個人が成長するために必要なものとは。

―いきなり本題ですが、今まで関わったビーチサッカーのプレーヤーの中で“こいつは成長する”と思う人の共通点はありますか?

解答者の写真
 人の話を聞くプレーヤーは伸びますね。理想が高いプレーヤーは人の話が聞けるんですよ。

質問者の写真
人の話を聞くって、シンプルだけど難しいですよね。

解答者の写真
 現在地と求めているもののギャップが大きければ大きいほど、自分の力だけでは限界がある。だから人の話を聞く。
人の話が聞けるのは、そのプレーヤーの志が高く、向上心があるからです。僕のコーチとしての役割はそのプレーヤーのできていないことを気づかせることにあります。

質問者の写真
 「現状あなたの実力はここですよ」と言われた時に、それを素直に受け入れるって結構ハードルが高いですよね。
プレーに対する想いが強ければ強い分、コーチからの評価が低かったら、きっと抵抗を感じちゃうだろうし。

解答者の写真
 ハードル高いです。抵抗感を感じて、そのハードルをずっと超えられない人もいる。
それを超えられた人が、伸びる人だと思う。僕はそのハードルだけを用意している感じです。

―ハードルを越えるのは、あくまでも相手の課題である、と。

解答者の写真
 それを一緒に(超える)っていう感じではない。そこを飛び越えられないんだったら、成長は難しいよいうのがプロの世界。
チーム内の競争もありますからね。例えばサッカーは11人でやりますが、1対11でではなく、味方も含めての1対21の世界。

―確かに。まず試合に出るためにチームメイトに勝たなければいけませんからね。

解答者の写真
 僕はJリーグのアルビレックス新潟っていうチームでもやらせてもらったけど、チーム内での競争がとにかく激しい。すごい難しい。
試合にそんなに入れない位置だったんで、ピッチの外からチームメイトを素直に応援できない自分がいる。それはすごい葛藤があって、メンタルがきつい部分があった。
試合に出られないし、チームも応援もできない大変な世界を経験した。上に行けば行くほど、そういう世界になってきて、サッカーを楽しむって言っていられない世界になるので、
子どもたちにはサッカーを好きになってほしい思いがある。

質問者の写真

 たしかに、子どもたちに結果だけを求めていませんでしたからね。競争させて「うまくなれ!」なんて、たけコーチは言いませんでしたから。

解答者の写真
子どものうちから結果を求めるのは少し早いなと感じています。

質問者の写真

 だから時々、たけコーチのチームにいたみんなとサッカーしたら、すごい楽しそうなんですよね。好きにプレーできる!って。

解答者の写真
 子どもの場合はあくまでもスクールであって、勝負のない世界だと思っています。そこで結果は全く考えていません。
そこが僕のスクールの強みだと思っています。

―結果を求めないところが強みって、なんかイイなぁ。

結果を出すために、大切にすべきこと

―逆にプロのチームでは結果が第一だと思うのですが、プレーヤーの中でも、結果を求めるとテンションが下がる選手はいますか?

解答者の写真
 いますね。そこで戦えない選手もいます。でもプロスポーツ選手は勝利を目指さないといけない。
そこは絶対に譲れない条件なんですが、一方で結果をコントロールできない難しさも感じています。

―“結果はコントロールできない”とは、どういうことでしょうか?

解答者の写真
 僕たちがどんなに頑張っても相手が強かったら負けちゃいます。どんなに勝ちたいと思っていても、その想いだけで勝てたら、誰も苦労しませんよね。

質問者の写真

確かに。

解答者の写真
 だからこそコントロールできる部分に力を注ぐんです。僕らがコントロールできるのは“プロセス”ですね。よく準備が8割と言いますけど、
その準備のところが大切なんです。試合に向けたプロセスの中で、どれぐらいいい準備ができるのか。日々のトレーニングの中で何を感じて、
どうやって成長していくのかというプロセスが大切です。

―プロセスがいい感触だと、結果もついてくる?

解答者の写真
 もちろん。最終的なゴールは“より良い結果”です。結果から逆算してプロセスがあるわけです。
結果がどうでもいいわけではないのですが、それよりも大事なのはそれまでのプロセスです。そしてプロセスを支えるのが理念なんです。

―理念。ちなみにソーマプライアの理念ってどんなものなんでしょうか。

解答者の写真
 僕らの理念は、ソーマプライアに関わる人たちと世界一を目指す中で感動を共有するということです。
世界一になるというのではなく、世界一を目指すことです。
もし世界一になっても、そのプロセスはずっと続いていくわけで、
そうなればビーチサッカーをずっと続けられるなと思っている。

質問者の写真
 ビジネスでも良い結果は業務をいかに回して売り上げをあげるか、数字をあげるかというところだと思うんですが、
そもそも私たちの組織の理念ってなんだっけ?と結構従業員に伝わってないことが多いんですよ。
だから目の前の仕事に必死で、自分の仕事って何のためにやっているのかが分からなくなっている。
仕事の理念が浸透している組織と、してない組織では出てくる結果がぜんぜん違います。

―スポーツもビジネスも、最終的なゴールは“より良い結果”だけど、まずは組織の理念に基づくプロセスを大切にするべきってことですね。
毎日の業務が忙しいと理念って忘れちゃいそうですね。それを日々伝えていくのが上司の役割なんでしょうか。

質問者の写真
 上司だけじゃないですよ。そこで働くみんなで作り上げていくものです。例えば、新入社員に対して教育するとき、“仕事のやり方”を教えるじゃないですか。
「印鑑はここに押して」とか。それが何で必要な作業なのかを教えるやり方をしない。そうすると“業務を覚えれば仕事ができる”ってなってしまうんです。
人が育つシーンというのは、この作業が何で必要なのかを理解すること。先輩も新入社員から「これって何で必要なんですか?」
聞かれたら答えられるようにならないといけないと思います。先輩も理由が分からない場合は、「社長に聞いてみるね」と言える空気感が大事。

―その仕事が何に繋がっているのかを考えるって大切ですね。

質問者の写真

 日々の業務を一つ一つ考えてやっているかどうか。その業務の先が見えてるかどうか。

―その先、自分の仕事が理念に繋がっているかどうかってことですね。

解答者の写真
 理念を忘れちゃったら苦しいですよ。ビーチサッカーなんて炎天下のトレーニングで死にそうになりますから。

―ソーマプライアに関わる人たちと感動を味わうんだ!と思えれば、もう一本、ダッシュ頑張れそうですもんね(笑)

勝つためにチームに求めること

―試合に出るメンバーを選ぶのもコーチの役割だと思うのですが、たけコーチのメンバー選びの基準はありますか?

解答者の写真
相手が見えている選手です。

―というのは?

解答者の写真
(ミーティングルームにあったお菓子を使って説明するたけコーチ)例えば味方がボールを持ってます。その時、自分が考えるべきことは3つあるんです。
まず自分がどう動くか。どこに動けばパスをもらえるのか。そして味方の状況を見ますよね。味方はパスを出せる状況なのか。
極端な話、味方が背中を向けていたらパスなんかもらえっこないですよね。自分と味方の動きには考えが及ぶんです。
さっき、考えるべきことは3つあるって言いましたよね?まず自分。そして味方。そしてさらに考えなきゃいけないのが敵チームのこと。
自分と対峙する相手の動きなんですが、これを考えられない選手が多い。ビジネスでいうと、相手は“お客さん”にあたるかもしれない。
相手(お客さん)の姿が見えてないことがすごい多い。相手(お客さん)がどう動くかということを想定して、自分が逆算して動く。
相手のことをを考えずに自分たちが先に動いてしまうことが多いと感じてます。

質問者の写真
 自分たちがどうするかってことに終始してしまってるんですね。自分たちが動けば勝てると思っちゃう。

解答者の写真
 そうなんです。だから自己評価が高すぎると怖いなって感じています。自己評価が高いと相手を分析しませんよね。

―おれたちは強い!おれたちのプレーをすれば負けないって感じでしょうか。

解答者の写真
 ぼくが大切にしているのは弱者の兵法。“自分たちは弱い”というのが大前提。ビーチサッカーに限らず、球技スポーツ全般でいうと、
日本人は海外の選手に体格で勝てない。一人一人の個人のポテンシャルで考えたら、まず勝てないんですよ。
そんな強い相手に対しては、相手を見て、相手の弱点を見て戦略を立てる。

質問者の写真
 相手(お客さん)ありきで考えるんですね。いい意味での自己否定ができているから、相手のことをしっかりと研究できる。

解答者の写真
 難しいんですけどね。あまりに否定し続けると、自信がなくなって、普段ならできるプレーもできなくなる。

―自己肯定と、弱者の兵法をどう両立させるかってことですね。うーん。難しそう。
コーチとして、選手に“相手(お客さん)を見る視点”を持たせるために工夫されてることはありますか

解答者の写真
 シチュエーションを作ってあげることが大切です。例えば、成長してほしい選手を“A”としましょう。試合で5対5で紅白戦をします。
Aのチームが試合で負けたしましょう。次の週にも同じメンバーで試合をするのですが、Aだけメンバーから外すんです。

―Aさん以外は前の週と同じメンバーで試合をする、と。

解答者の写真
 そしてAがいたチームが勝ったとしましょう。Aが外れたことで試合に勝ったことになる。そうなるとAは考えるんですよ。
先週は負けたのに、自分が外れて、試合に勝った。なぜだ!って。

質問者の写真
きついですね笑

解答者の写真
 ぼくのやり方はきついと思います。でも自分の頭で考えて、そのハードルを上がってこれるやつは、とんでもないところまで伸びる。
それくらいのことをやって這い上がってこれないとプロの世界では通用しない。ぼくらが目指しているのは世界一なので。

―ありきたりな言葉ですけど、スポーツの世界って厳しいですね…。

次回は世界を目指す河原塚氏が実践している選手へのコーチングについて語ってもらいます。波上が見てきた“葛藤する世代”についても言及し、それぞれの想いをぶつけ合いました。